modern fart / 【いしいこうたの全然だいじょうぶですよ!】 #2 ピラミッドの上から星空を眺めてもだいじょうぶですよ

サワディーカップ、いしいです。
日本がゴールデンウィークのころ、丁度タイも祝日が重なって連休となっていたので、バンコクからおよそ220キロ南に位置する、チャンタブリーという町をタイ人の知人に案内してもらいました。チャンタブリーのローカル料理を食べたり、川で泳いだり、充実した休日となりました。

この連載は、無意味にタイに引っ越してきたいしいこうたが日々の出来事を綴るというもので、前回はなぜタイに引っ越すことになったのかという、きっかけについて書きました。今回はその続きです。

タイに引っ越すことがなんとなく決まり、ボヤっとしていたらあっという間に半年が経過。それまで面倒くさがって一切手を付けていなかった出国に向けての準備を始めたのは、飛び発つひと月前のあたりでした。

その話をする前に、少し時間を遡って昔の話を。
2年前、東京の多摩ニュータウンにある実家に住んでいた頃。

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写真は本文と関係ありません

数日前から熱帯日が続き、深夜1時を過ぎてもまだ生ぬるさが残る、6月も終わりに差し掛かったある日。
当時、持ち前の時間観念の緩さから終電に乗り遅れるということがしばしばという頻度でなくありました。この日もまた例外ではなく、自宅の最寄り駅までの終電を逃してしまい、2つ手前の駅から歩いて家へ向かっていたのでした。いつもだったらまっすぐと家へと向かうところなのですが、途中で力つきてしまい、一休みをしようと公園に寄ることにしたことから話が始まります。

その公園は、家からそれほど近くはないのですが、子供の頃に友人と自転車に乗ってよく遊びにきていた場所でした。
中心にはマンション4階分にも相当する高さの、側面に一筋の滑り台があるほかは段々の階段になった、マチュピチュのピラミッドを彷彿とさせる見た目の、遊具と呼ぶにはあまりにも大きな建造物があります。そこで子供時代に鬼ごっこをしたり、滑り台からスーパーボールを転がし落としたことを思い出していると、疲れていたはずなのに、まるで吸い寄せられるように、ピラミッドの頂上へと歩を進めていたのでした。公園自体が小さな丘の上に位置しているので、ピラミッドの頂上にのぼると周囲の住宅も、木々も全て見下ろす高さ。見渡すと、街道の向こうにある丘陵の木々の先が、その奥にある市街地の明かりでほんのりと燃えるように色づくさまが見えました。その日は天気もよく、車の通りも少ない時間になっていたので、上空は澄み渡り、たくさんの星々が輝いていました。星座を眺めるようなロマンティックな趣味はないけれど、一応知識としてある、夏の大三角形、北斗七星が見えることを確認し、リュックサックを下ろしてゴロリと寝転んでみました。ここで遊んでいた10年くらい前は、こんな真夜中に、こんな光景を、このピラミッドの上から眺めることになるなんて思いもしなかったなあ、なんて時の流れを感じてちょっぴりセンチメンタルな気持ちに。その体勢のまま星空を見るでもなく、視界に入れつつぬるい風を感じていると、次第にウトウトとしてきて、熟睡してしまいました。

しかし、翌朝起きてみたら、とんでもないことになっていたのです。
日の出とともにさえずり出した鳥たちの鳴き声に起こされ、スッキリとした気分で上体を起こし、あたりを見渡してみると、すぐさま異変に気がつきました。眠る前にはそこにあったはずの場所から、リュックサックがなくなっていたのです。
沸き上がる嫌な予感をおさえつつ、寝ぼけて蹴飛ばしてしまったのではないかと立ち上がり、付近を探してみたのですが見つかりません。全身の毛穴からブワっと嫌な汗がでてきます。
「ないはずはない、きっとどこかにあるはず」と自分に言い聞かせながらピラミッドを下り、公園内を探すと、すぐに隅の草むらにそれらしき物が見つかりました。しかし、それはもう既に変わり果てた姿になっていたのです。閉じていたはずのチャックは完全に開け放たれ、カラスがくちばしで切り裂いたゴミ袋のように、中身はバラバラに地面に散らばっていました。見るも無惨な光景に動揺しつつも、仕事道具のMacBooK Pro、命にも代えがたいMacBook Proを血眼になって探します。すると、近くの生け垣にスリーブケースに入ったまま刺さっているのが見つかりました。とりあえず電源ボタンを押し、無事に起動するのかを確認。ハードディスクが「ウィーン」と小さなうめき声を上げてから、見慣れたリンゴマークが画面に表示されるまでの数秒間、僕の心臓が打った鼓動のクロック数はギガヘルツを優に超えていたはずです。大事な大事なMacBook Proには何事もなかったようで、一気に脱力、安堵していたのですが、結局最後まで見つからなかった物がありました。それは、財布デジカメiPod touch外付けハードディスクでした。

その後、散らばった物をかき集めて入れたリュックサックを背負い、自らの不注意を悔いる気持ちと、こんなことをした犯人への怒りがミックスとなった酸苦の味を噛み締めつつ駅前の交番へと歩いていき、被害報告。
財布の中に入っていた金額、お札や硬貨の枚数、カード類の種類とその枚数、電化製品はメーカー、型番、製造番号まで事細かに聞かれ、全て記録に取られました。製造番号まで記録するならば近所のハードオフに転売されたり、中古市場に出回ったら果たして僕のもとにかえってくるのか、などと考えながら、分かる範囲についてはその場で答え、その他は帰宅して確認後にまた申告をしに行きました。「酔っぱらって寝てたの?」寝た場所とその時間、起きた時間について尋ねられた後、警官に言われました。いいえ、シラフでしたと答えると「なんでシラフなのに公園で寝るの?ちゃんと家に帰って寝ればいいのに」などと言いながら訝しげな目で僕を見ます。そうですよね、普通は公園で寝泊まりなんかしませんよね。結局、この夜になくなった物が僕のもとに返って来ることはありませんでした。
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ほかの日の仕事帰り、終電の山の手線。寝過ごして最終停車駅の品川で車掌に起こされると、耳に差したイヤホンの先にあるはずの iPhone 4Sが見当たりません。足下、カバンの中もくまなく探すけれど、依然として耳から垂れ続けている、白いケーブルに繋がっていたはずの物はどこにもありませんでした。当時使用していた MacのOSがiCloudに対応していなかったため、紛失したApple製品の現在位置を特定する機能を使用することができず、遺失物届けをJRと警察に提出したけれど、そのことについての連絡は一度もないまま新しく買い直すことになりました。

また他の日には、、、と例を挙げれば腐るほどあるくらい、外で寝てしまって物を紛失するような失敗を多々犯してきました。

そのなかでも特に、長々と上に書いてきたエピソードが最も深い心の傷として残っていたのもあり、クレジットカードなんて持ったら誰か悪い人に盗まれて悪用され、破産するのが関の山という考えに至り、作るのを躊躇していたのでした。しかし、海外に引っ越して生活をするのだとしたら持っていないと不便であろうと、2013年2月15日に意を決してクレジットカードの申し込み手続きをしたのが、タイへと向かう最初の準備となりました。
ただ、このときは申し込みから2週間程度でクレジットカードなんてできるものだと思っていたので、この後実際に手に入れるまでにどんな苦労をすることになるかなんて、知る由もなかったのですが。

今回のおすすめTEE

3 BABY STAR
3 BABY STAR / 河地貢士

あのとき見た夏の大三角形は確かこんな感じでした。

http://modernfart.jp/2013/05/10693/

投稿者: kenmat

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